著書・学術論文 子どもと咲く花 せんせいのすてき

私の時間が豊かに膨らむ

2018年7月10日

 

仕事の合間に、時間があまった。

次の打ち合わせまで、およそ一時間。

移動するには足りないから、

どこかでコーヒーを飲むことにする。

 駅の周辺を歩くと、

町の古い喫茶店という佇まいの店が一軒あった。

サイフォン抽出の店、カフェモカと書いてある。

これに惹かれて、入ることにした。

 

店内は老人客で盛況だった。

車椅子の人から、とてもヨボヨボの人から、

常連らしい50過ぎの兄ちゃんもいた。

みんなランチを食べていて、とてもおいしそうだった。

赤い椅子に座ると、不思議ととてもくつろいだ。

なんか、魅力のあるお店だなと思った。

 

メニューを開くと、

トップに、とてつもなく高額のコーヒーが並んでいた。

キリマンジャロとか、ブルーマウンテンとか、知らん名前とか。

一方、カフェオレは、420円だった。

東京的に安い。

まわりの皆さんが頼んでいるランチも、

量から言えば実に良心的な値段である。

なのに、なぜ、コーヒーがこの値段なのか?

 

いつもなら、迷わずにカフェオレを頼むはずなのに、

「サイフォン抽出」の文字と「コーヒー。」と思っていたことと、

ブルーマウンテン、好きよね、と思ったせいで、

血迷って、コーヒーにすることにした。

 

60歳半ばのおばさんに、

「ブルーマウンテン下さい。」という。

するとおばさんは、

「え・・・。」

と、動きをとめて絶句した。

 

はい?

 

思わず私も、なんか、悪いことした?

と戸惑う。

二人で黙る。

 

「え・・と、

 これって、驚くことなんですか。」

と尋ねると、

「え・・・、いや、なんていうか、

 ブルマンなんて、年に2,3回しか出ないから。」

 

って、そんな心底驚くようなメニューをどうして、

トップに書いてあるのかね、と心で突っ込む。

 

そして、おばさんはカウンターのマスターに、

「ブルマンです。」というと、

ここでも、

「え、」と息を止める声が聞こえた。

 

こうして私は、年に2,3回の客の一人という、

スターダムにのし上がった。

だた、その頻度なら、豆は古い。

どんな保存状態だろう。

と、いらん想像をする。

そうして、出された水を一口飲むが、これまたおそろしくまずかった。

さらに、店員さんが持っているホットドッグのパンは、

最安値更新みたいなパンだったから、

あぁ、今回は(お金を)捨てることになるかもしれんな、

と思う。だが、料理はどれもおいしそうだ。

 

それにしても、常連客のくつろぎ方と、

飾り気のない店の気遣いがあたりを包み、

私はとてもリラックスしていた。

 

カウンターから、

「ブルマン出ます!」というマスターの声が聞こえた。

だが、店員さんは、なすを引っ張り出すことに必死だった。

さらに、「ブルマン出ます!」という張りのある声が聞こえる。

 

とうとう、やってきた。

おいしかった。

無事に。

 

よかった、と喜びに浸っていると、

マスターの怒鳴り声が聞こえてきた。

「ほら、早くしろよ~。」という声の横で、

人の良さそうな店員さんが、

「ほら、マスター、怒り出しちゃうから・・・、」

とブツブツ言っている。

彼は、「もっと、(ソース)をなめらかにのせろよ、」

と怒り、「さっさとしろ」と怒り続けていた。

だが、「おいしかったです。」というと、

満面の笑みを返してくれた。

 

会計のとき、60歳半ばの奥さんであろうおばさんは、

こんな高いお金をもらうのに、

騒騒しくてほんとにごめんなさいね、

生まれ変わったら、絶対あの人と結婚しない、

と言っていた。

 

だが、おかげさまで、

私の時間が豊かに膨らんだ。

 

コーヒーのすてき。