Sくんは、ジェントルマンである。
一日中泣いている雰囲気であるが、
そのほとんどは、どこか演技的である。
本気だけど、アピール度が高いというところであろうか。
そこで、3日目にこう、声をかけてみる。
「もう、あきらめや。」
何を言い出すのか、という目でみるSくん。
そこで、お家であかちゃんになりますか?だの、
お家には、こんな大きな砂場がありますか?だの、
いろんなことを言ってみる。
そして、「お家帰る?」と聞くと、
「ううん、」と首をふる。
ジェントルマンは、誇り高き男である。
そして、A先生に抱っこされて、
ダンゴムシに興味を示すものの、怖くて触れない。
「あ、触れんのね。」
と、「そうなんだぁ。知らなかったぁ。」という雰囲気で言ってみるも、
Sくんは、こわいんだ、ぼくはかわいそうなんだモードで対抗してくる。
積極的に身体を動かすことは難しいテンションであるけれども、
「不思議」には、心を動かしてくれそうだと、
色水遊びの環境をつくる。
目の前で、水の色が変わっていく様子に見入るSくん。
そこで、一緒に花を採りに行くことにする。
すぐに、立つSくん。
そして、
「あ、この花ね。」と花を採り、
「これはどうすんの?」と草をつまみ上げる。
その雰囲気は、大企業の秘書室部長みたいな感じであり、
私はその同僚であった。
君は、自分がかわいそう、ではなかったのかね。
さらに、彼は、さっき触れなかったダンゴムシも、
一瞬見つめてから、ひょいとつまんだ。
「さわれんじゃん。」と自分で思っている雰囲気であった。
そうして、ダンゴムシの世界に没入していった。
というわけで、プライドをくすぐると、
俄然、燃え上がる男であった。
彼のすごいところは、自分が見てほしい、と思った時に、
ちゃんと見せたいものを自分で運んで、
見せたい先生のところに行っていたことである。
それも、自分のことを見てくれた先生に。
だいたい、泣いていたところから、
他に興味を持てるものが見つかっても、
その気持ちを受け止めてくれる人がそばにいなかったら、
「誰も、僕のこと見てくれない、わーん。
知らない人ばっかり、わーん。」
とすぐに泣くものである。
だが彼は、そんなとき、
自分で先生を見つけて見せに行った。
見た目通り、相当、自立しているし、
結局のところ、かなり大丈夫な人なのであった。
世界が広がるね。
子どものすてき。