今年は、さくらんぼが早くて、おいしく採れる、
脚立で収穫していると、工事の方が、もっと高い脚立を貸してくれた。
そこで、高い方の脚立に乗って採っていると、
年長のSくんが、低い方の脚立に乗って、採り始めた。
彼は。
幼稚園の環境では足らない子であり、
いつも、新しいものを求め、刺激的なものを求めて、あえいでいる男である。
身体能力もずば抜けており、頭の回転もものすごく早い。
だからして、私的にはどこか申し訳なく思う次第であるから、
やはり、こういうことはさせてやりたいと黙ってみる。
しかし、彼の向う見ずなところが心配で、
傍に立つ。
最初は慎重である。
足場もしっかりしたところを選び、
割れてない物を見極めて、下で待っている子たちに分け与える。
そして、予想通り、高い方の脚立を選び、
採りはじめる。
私の声は多少厳しくなるが、それでも見守る。
他の子も、挑戦しようとしているが、
恐いようで、自分から辞めていく。
採るところがなくなると、
少し足場の悪い所を選び始める。
それを阻止すると、今度は、身体を伸ばして、遠くの実を採ろうとする。
予想通りの展開になってきた。
私は、「もう、終わりにしなさい。」と声をかけ、
彼の脚を支える。
と、枝がぼっきり折れて、あわや転倒という事態になる。
そこで、
「だからいうたろう!
自分が特別ってこともわかってるはずや。
やめなさいって、言ったらやめなさい!」
とかみなりを落とす。
すると、彼は、涙ぐみ、
私が肩を抱くと、腰にしがみついてこう言った。
「一個も食べてない。」
ぶふ。
そうかそうか。
全部、みんなに配ってたもんね。
というわけで、スペシャルきれいなさくらんぼを5つとって、
「みんなに頑張って採ってくれたSくんに。」
と渡した。
笑顔に戻ったSくんだったが、
予想通りに危険だった。
子どものすてき。