Gくんは、ちょっと私たちとはちがう世界を生きている。
そんなGくんが、「Gくん、こんにちは。」というと、
「こんにちは。」と返してくれるようになった。
うれしくて、つい、会うたびに繰り返す。
そんな今日この頃、目を見張る光景を見た。
それは、Rちゃんが、魚をはさみで切っている様子を、
隣に座って、じーっと観察している姿だった。
その視線は、あきらかにRちゃんの手の動きにロックオンされていて、
その過程を見ていた。
そして、Rちゃんが私の視線に気づき、
「あ、まみこ先生。」というと、それに合わせて、こっちを向いた。
奇跡。
思えば、そんな兆しはいろいろあったわけだが、
いやはや、すごいじゃないか。
起こっていることに興味を持つことはあっても、
人の動作に興味をもつとか、その過程を眺めるとか、
人と対象を共有するとか、そういうことは、苦手な傾向を持つ彼が!
フンガー。
というほど、私の心は興奮した。
そこで、魚を担任からもらい、
「Gくんも、これやる?」と尋ねると、
瞳孔が開いた。
「はさみ、持っておいで。」というと、
すぐに向かう。
そして、一緒に切る。
一生懸命だ。あれこれあれこれ、私が持ち方を教えると、
その言葉を繰り返しながら、彼も工夫する。
私は何度も手を切られそうな気がして、
「おいっしょ~。」とよけながら、紙を支える。
できた。
「色塗るか。
クレパス持っておいで。」
というと、すぐに自分のものをとってくる。
まず、目を描かせたいと思った。
「目~、描いて。
目。
目~。」
と、彼の顔をのぞきこんで目を強調する。
すると、彼は青のクレパスを取って、
「目~。」
と言いながら、目を描いた。
それは、なんというか、丸のような線のようなものであった。
それから、「うろこー。」というと、
「うろこ。」と繰り返して、塗り始めた。
しっぽから、いろんな色を変えて、ぎざぎざと塗る。
それは、正面のRちゃんの塗り方と同じ、
虹のようなグラデーションをもつ塗り方だった。
できたー!!と共に喜び、
後ろに名前を書く。
二人の先生に「見せに行って、」というと、嬉しそうに見せに行った。
二つ目やるかなと思いながら、誘うとすぐに乗ってきた。
さっきよりも、意識してはさみを開いた。
そのとき、口も一緒に開いていた。
ははは。
そして、今度の目は、もっと意識して丸く描けた。
それから、ウロコを塗っていると、
先生から片付けの声がかかった。
すると。
彼の塗る速度が速くなった。
あぁ。
なんて、幸せなんだろう。
彼が、私たちに開かれてきた。
彼の世界が、私たちの世界とつながってきた。
奇跡を見るような幸せ。
子どものすてき。