彼は、このとき、何かを得たようだった。
おそらく、終わりをつけることの気持ちよさだろう。
けれど、他の競技にわからなさを抱えていることもあり、
何より、負けたくないという思いも強く、
練習となると外れがちであった。
だが、最終日。
彼は、戻ってきて「やる」といった。
クラス内の対戦である。
先に彼がバトンをもらった。
後方から、相手が追い上げてくる。
外側から詰められて、彼は転んだ。
神様は、試練を与え続けるな、
と思った。
彼は座り込んだ。
頑張れ!
最後まで!
立てる!
やり遂げるんだ!
という周りの激が飛ぶ。
それは、その通りだが、
これまでの彼の心の軌跡から言うと、
それは苦痛であり、酷なことだった。
クラス全員が、
「Kく~ん!!」
と呼ぶ。
それは、今じゃない。
だから代わりに、
「本番で、頑張ります。
今は、そっとしちょいちゃって。」
といった。
それでなんだか、みんなで、走り狂った。
なんか、いいやん。
みたいな気持ちをみんなで共有して、
ちょっと雨が降ってきても、なんだか、走りまくった。
バトンは行方がわかったり、わからなくなったりしていた。
彼もすごく楽しそうだった。
そして、ずっと私と手をつないでいた。
そして、「まみこ、一緒に走ろう。」と繰り返していた。
彼は、自分のところに走ってくる友だちの名前を呼んでいた。
リレーって、どんなことか、バトンをつなぐって、どんなことか、
わかり始めているのかもしれなかった。
二日前に、彼のあまりの所業に怒り狂った私であったが、
それから、接点を持ってなかったが、
今、このとき、手をつなげて嬉しかった。
それから、彼は水で遊び始め、
ホースをもって、そこらじゅうに水をかけ始めた。
ズボンを脱ぎ、パンツを脱ぎ、
その上、おしっこまでした。
本来がこれなら、
今の生活は辛いなぁ、
と思った。
私は一緒になってずぶ濡れになって、
攻撃したりされたりした。
ちなみに、彼には仲間があと2人おり、私は、大変だった。
なかなか、「やめる」ということが難しそうだったので、
ぱりっと気持ちが切り替わりそうな、
みちこ先生に助けを求め、
お昼ご飯へと促した。
彼は、「こけてもYと最後まで走る。」と言ったそうだった。
結局彼は、練習で、一度も勝てていない。
日常生活のなかで、
負けたくないといつも思って、負け続けている彼が、
やっぱり、負け続けている。
それも明らかな「勝敗」という場面で。
それが、運動会までに神様が与えた試練である。
神様は、頑張り続ければ、いつか勝てるということを、
本番で教えてくれるのだろうか、
それとも、
負け続けても、Kくんは、Kくんであり、
負けても、かけがえのないものを得ることができるのだと、
伝えてくれるのだろうか。
いずれにしても、「やり遂げる」ことが、大切であり、
彼は、その準備を整えた。
様々なドラマが展開する、運動会。
子どもすてき。