ものすごい泣き声が聞こえる。
Sちゃんだな。
Sちゃんだった。
誰も寄せ付けず、断固として泣く。
しかし、そのお顔は、よだれと鼻水と涙だらけ。
「Sちゃん、待って。
お顔によだれがだら~っ、
鼻水が、べと~、
涙がぽろり!
お顔拭こうね。」
と言って、カバンから、ティッシュを出す。
「はい、まず、よだれ。」
ここは、泣き止む。
「ほら、かわいいお顔になった。
次は、鼻水。」
泣くので、見せる。
「ほら、鼻水。
これで、きれいになった。
次は、涙。
Sちゃん、かわいい顔に戻った。
泣くときは、よだれと鼻水を出さんで泣きなさい。」
とかいう、園長ドウモトマミコ。
Sちゃんは、
「お母さん!お母さんがいい!
お母さんの所に行く!」
と泣いて主張する。
「お母さんがいい。お母さんがいいのね。(うん)
じゃあ、お母さんにお電話してあげよう。
Sちゃんが、おうち帰りたいって、お電話してあげる。
じゃあ、Sちゃん、
先生のお部屋にお電話あるから、一緒に行こう。」
といって、抱っこの両手を差し出すも、
断固として、受け取らない。
お母さんに迎えに来てもらうという。
「けどSちゃん。ここで、お母さーんって、
呼んでも聞こえないから、お電話しなきゃ。
ここで呼んで聞こえる?」
「うん。」
「聞こえる?!
ほんまか。
よっし、じゃあ、呼んでみるよ。
Sちゃんの、お母さーん!」
耳を澄ませる。
「返事ないやん。
Sちゃん、聞こえた?」
「うん。」
「聞こえた?!」
「うん。」
「うそ!
もういっかい、呼ぶで。」
と言って、呼ぶ。
もちろん、返事はないが、Sちゃんは、聞こえるという。
そこで、「Sちゃん、呼んでみて。」
というと、Sちゃんは、多少大きい声で、
「おかあさーん。」
と呼ぶ。
耳を澄ませてみる私。
「聞こえた?」
「うん。」
「うそ!まみこ先生、聞こえんが。
「Sちゃん、そしたらお母さん呼びに行こうか。
あっちまで。」
と門を指すと「うん。」という。
時々身を寄せてくるので、
抱っこしたいと思っていた私は、
「じゃあ、Sちゃん、自分で歩いていく?
抱っこして行く?」
と聞くと、抱っこでうなづいたので、抱っこする。
よし。
「Sちゃん、お母さんが使うのどっちの門?」
と聞き、指さした方に行く。
「よし、じゃあ、お母さんて呼んでみて。」
というと、
大変控えめに「お母さーん」と呼ぶ。
「Sちゃん、お母さんに聞こえた?」
「うん。」
「じゃあ、お母さん、来てくれるかな。」
「うん。」
「じゃあ、ここで、待ってよっか。」
「うん。」
「でも、お母さん、すぐに来れんね。」
「ううん。」
「けどお母さん、空飛べる?」
「ううん。」
「飛べんろ。
ここ来るまで、時間がかかるね。
Sちゃん、今日バスで来た?
じゃあ、お母さん、赤ちゃんのおむつとか持って、
赤ちゃん抱っこして、いろいろ準備して、
車で来んといかんね。
それまでの間、ここで待とう。(うん)
でも、時間あるからその間に、お荷物しちょく?」
と聞くと、
「うん。」という。
よし。
つづく