ちょっと、間違えただけだった。
だが、それが自分で許せず、顔を隠して泣くSくん。
「どうしたの?
何があったの?」
と尋ねると、さらに泣いて、
「あっち行って~。」と、ガンガン蹴ってくる。
む。
そこには、独特のイケメン自己中があったので、
足で蹴るのは許さん、
と話をすることにした。
一人、藤棚でワンワンと、いや、ギャーギャーと泣く。
「泣くの終わったら、声かけてね。」
というと、
「園長先生が、泣けって言ったから、泣いてるんだ。」
というので、
「はぁ?
泣けなんて、一言も言ってませんけど。
どうぞ、終わったら言ってください。」
というわけで、泣き続ける。
「まだですか。」
と聞くと、
「ここんとこ、毎日、嫌なことばっかり続いてる。」
とヒックヒック言いながら泣く。
「なに!?
ずっと続いてるの?
嫌なことが?」
これが、年少児のいう言葉かと驚きながら聞き返す。
「何があったの?」
と尋ねると、
「お父さんが、ちゃんと石鹸で洗わんが。
僕は、ちゃんと泡を立てて、こうやってこすって、
洗ってるのに、お父さんはやらんが、
わーん。」
と泣く。
さすが、イケメンの言うことである。
そして、僕だけが、ちゃんとやっている、
お父さんは間違っている、なのに、全然わかってくれない、
と悲しそうに、そして怒ったようにいう。
そこには、お父さんに対する心配があるようだった。
だって、今、大変なときだもんね。
それにしても、話しぶりのかしこさに感動して、
ちょっと難しい話をすることにした。
1から10まで、きちんとちゃんとできる人がいる。
だけど、1から6までで、まぁいいやって思う人もいる。
できない人もいる。
お父さんは、お仕事は1から10までちゃんとやるけど、
せっけんで洗うのは、5でいいやって、思ってるのかもしれないね。
そうやって、まぁいいかっていうのがあると、
人のこともまぁ、いいやって許せるし、自分も楽だよね。
Sくんは、さっき間違った自分が許せないし、
そんなの恥ずかしくて耐えられないって思うから、
あれだけ、泣くんでしょう。
でも、間違えない人は誰もいないし、子どもは、いろんな間違いをして、
大きくて、強くなる。
「あぁ、そうか、次はこうすればいいや。」って思えばいい、
そうやって、心は大きくなるし、強くなる。
というわけで、せっかく子どもなんだから、
やりたいこと、なんでもやってみればいいよ、
それで、大人に怒られたら、あぁ、これはだめなんだなって、
思えばいい。
子どもは、なんだってやっていいんだよ、
という話をした。
彼は、目をきらきらさせて、
「心が、大きくなったら、身体もこーんなに大きくなるの?
こんなちっちゃな心が、これくらい、これくらい、こんぐらいになって、
こ~んなに心が大きくなったら、身体もどんどん大きくなる?」
と手で心をつくりながら、言った。
子どもって、いいですよね。
「うん。そう。
心が大きくて広くなったら、いろんなものが入ってくる。
それは、楽しい。
心が小さくて、狭かったら、もうこないで、やめて、
間違うの嫌だからやめとくってことになっちゃう。
心が大きかったら、気持ちいいし、楽。
それに、身体は飛行機に乗らないとどこか遠くに行けないけど、
心は、どこにだって行ける。」
というと、また、目を輝かせて、
「ほんと?
どこにでも行ける?
雲に乗って?」
「うん、そう。」
子どもって、ほんまにいいですよね。
というわけで、そこから私たちは、かみなりの話をして、
無事、すこぶる和解の雰囲気で別れたのであった。
子どものすてき。