そして、お帰り前に、また彼を呼ぶ。
すると、彼は、めっちゃ嫌そうな顔をした。
むしろ、むかついていた。
いつもは、やり過ごしてきたことが、
そうはいかんのである。
「何を怒ってんの?
言うたやろう。待ちますと。
それは、このままで終わらんということや。
悪いことして謝まれんのは誰や!」
と撃が飛ぶ。
「おれ。」
と彼はちゃんと言った。
いい子やなぁ。
「自分だって、言いたいんやろ。
謝りに行くか?」と尋ねると、
「うん。」とうなづいた。
この問いかけに頷いたのは、初めてである。
「よっしゃ。」と二人で、A先生に言いに行ったが、
言えんだろうな、と思っていた。
そして、案の定言えなかった。
彼は、「ごめんねが言えない人」という自己暗示にかかったようなものである。
それを突破することは、本当に大変なことであり、
人生を変えるほどの大仕事である。
ここには、ご家庭の力が要る。
そこで、お母さんにお電話をして、
これまでの経緯をお話しして、
彼を励ましてもらうようにお願いする。
共通の課題を持っているだけに、話はスムーズで、
力強いご協力を得ることができた。
お母さんとお話しして、約束して、月曜日を迎える。
だが、私が休みを取っていて、
舞台が整えられなかったこともあったろう。
彼は言えなかった。