次の日の朝、彼を呼ぶ。
彼は、「あ~、」という半泣きの顔をする。
辛い時間がやってきた、というわけである。
そこで、彼の肩を抱き、
「いやいや、言えんかったって?
それだけ、大変なことなんやって、これは。
君は、頑張ってるよ。」
と言って、二人になる。
きっと、喉から声が出ないのだと思う。
まずは、声を出すことから・・・、
と思い、「字が読めるか?」と尋ねると、
「うん。」と答える。
そこで、適当に本の題名を読ませると、
割にはっきりと声を出して読む。
そこで、紙切れに、「ご」と書く。
「ご」と読む。
ちょっと間を開けて、「ね」と書く。
「ね」と読む。
つぎに「ご」の下に「め」を書く。
彼は、ちょっと意味がわかってきて、
首に巻いたバンダナをかみ始める。
最後に、「め」の下に「ん」を書いて、読ませる。
そして、続けて「ご、め、ん、ね。」と読む。
これについて、彼は、割にスムーズに声を出した。
バンダナをムニャムニャと噛みながら。
「よし、そのまま、A先生に言いなさい。」
と言って、A先生を呼ぶ。
いざ、A先生を前にすると、む~ん、黙り込んでしまう。
その後ろで、私はさっき読ませた「ごめんね」の紙切れを出し、
「読み、これを。」と言う。
彼は、それを一文字一文字、区切って読んだ。
「ご、め、ん、ね。」
「よし。続けて言って、A先生に向かって。」
というと、なんとも中途半端な視線で、
区切ってんのか、続けてんのかわからんくらいの感じで、
「ご・め・ん・ね」と言った。
それでも、A先生は、嬉しくなって「いいよ。」と彼の両手をにぎって言った。
先生は、とても嬉しそうだった。
私は、そのA先生の嬉しそうな笑顔が、とても嬉しかった。
だが。
彼は、非常に不本意そうな顔で、そっぽを向いた。
「なんや、違うの?
これでは、ダメなんやな?
ちゃんと言ってないわけね?」
と、問う。
「読んだだけで、おれ、ちゃんと言ってないやん。」
という訳である。
なんて、いい子であろうか。
「あとで、もう一回、言うか?」
と聞くと、「うん」と頷いた。
ほんまにええ子や。
そして、お帰りの前に、彼は先生と手をつないで、やってきた。
「よし。」と言うも、また、黙りこくる雰囲気・・・。
そこで、「ご、って言うてみ、ご、って。」
というと、割にはっきりと「ご」という、
「そのまま、言いや。」
というと、
ちゃんと先生の方を向いて、
「ごめんね。」と言った。
これは、ちゃんと、正真正銘の「ごめんね。」であった。
A先生と二人で、「やったやん、言えたやん、えらいえらい。」
と褒める。
だが、彼は、なんとも嫌そうな顔をするわけである。
これは、なんであろうか?
当たり前のことしただけやん、
そんなに褒めてくれんでえいし・・・、
と彼が言っていたような気がする。
とりあえず、
「これで、最後やないぞ、
これから、毎回やぞ。」
と言っておいたが、
(ちなみに、もう一件あったりするし。)
どうかなぁ、これから。
ただ、言えることは、
彼は、とても「正」へのエネルギーが強い子であり、
照れ屋で、思っていることの反対を言ったり、
注目されると途端に黙ってしまったりするのであるが、
クラスを根底で支える力がある。
目的に向かって、ブレずに頑張り続けられる彼は、
力強く、自分の人生を生きていける子で、
そこに「ごめんね」のパワーがつながったら、
鬼に金棒であろう。
頑張ってね。
子どものすてき。