生活発表会のときのこと。郵便屋さんの役で舞台の真ん中にいたSくん。フィナーレの踊りもそのまま最前列の真ん中です。恥ずかしくてたまらないSくん。もう一人の郵便屋さんのYちゃんの陰にさりげなく、いや、どうしようもなく立っていました。
「それがいい!」と感じたドウモト園長。終わった後で、Sくんのそばに行き、「本番も、Yちゃんの後ろに隠れちょきよ。」とささやきました。「えぇ~!」ととまどい、ちらっと担任のN先生を見るSくん。すっかり、困り顔。なんて誠実な人か。私は、だまって「うんうん」とうなづきました。
それから後日、職員室に座ってN先生を待っているSくんの隣に座り、
「Sくん、まみこ先生との約束覚えちゅう?」(約束してないけど)と聞くと、
「はい?」と、なんのことかわからんよう。
「Yちゃんの後ろに隠れちょくって話。」
すると、とたんに、くわ~っと恥ずかしいような、はははと心で笑うようなSくんでした。
なんて、素敵な人かしら。
そして、練習の日。
やはり、Yちゃんの陰に身体を斜めにして立っているSくん。それでいいよ、と思いつつ・・・。しかし、皆がダンスのなかで横を向いているとき、ましてや、しゃがんだ時、立っているだけだと、とっても目立ってしまうのです。
そこで、またSくんのそばに行って、
「Sくん、Yちゃんの後ろにおるのはえいけど、みんなが横向いたとき、横向かんと、みんながしゃがんだ時、しゃがまんと、目立つき。そんなとき、一緒にやった方が目立たん。」というと、「ぬ、」と瞳孔が開きました。
次のとき、お!しゃがんでる!ちゃんと、そうしようって動いてる。
すばらしい。何より、体が動いたことがすばらしい。
しかし、もっとびっくりしたのは、その次のときでした。
なんと、フィナーレが始まったとたんに、全速力で後方へ!
そして、ガンガンに!躍動感あふれて踊っているではないか!!
なんと!
この感動は、言葉には言い表せませんでした。N先生のアドバイスもあったのかしら?って聞いてみると、お部屋でもそうだったそうで、N先生も驚いていたようです。
こうして、Sくんは本番も、フィナーレが始まると舞台の中央から全速力で後方に走り、満面の笑みで踊ったのでした。
私は、これが「生きる力」だと思います。「どうしよう」ととまどい、悩み、自分で突破口を見つけたSくん。あの満面の笑みとキレのある動きは、踊りたい気持ちの表れでしょう。だけど、恥ずかしくてできなかった。その葛藤を超えて、自分で自分の気持を表現できる方法を見つけたのです。
「後ろに行けば恥ずかしくない。」
子どもの生きる力です。