Aくんは、虫が大好きである。
ある日、カミキリムシを誰が世話するのか争いなった。
すったもんだした挙句、ジャンケンで決めることになり、
Aくんは負けた。
そこは、仕方がないので引いたが、
どうしてもカミキリムシへの思いが収まらず、
お母さんに、ある場所に今から連れて行けと主張し始めた。
夕方、18:30。
これから、お母さんたちがどれだけ忙しい時間か。
彼の自己主張は、この時期とてもデコボコしていて、
なかなかの我がままぶりである。
しかしこちらも、「そのデコボコは許さん」
という気構えの時期だったので、
「この忙しい時間に、行けるわけないやろ。」
で一刀両断であった。
だがしかし。
彼の虫への思いは、すばらしきものであり、
それは大切にされるべきものである。
実際、手を噛まれても虫を愛せるのは、彼ぐらいである。
そこで、
「Aくん。残念やったけど、
実は、このレモンの木によくカミキリムシが来るのよ。
もし、まみこ先生が見つけたら、一番に君に知らせるね。
Aくんも、気にして見てみて。
まみこ先生が見つけたら、一番にAくんに知らせる。
ま、いつ来るかわからんけどな!」
そして、土日をはさんで、月曜日になった。
年中のSちゃんと朝のあいさつがてらじゃれて遊んでいると、
「あ~!あれ何?なんかおる!」
とSちゃんが背後を指さして叫んだ。
振り向くと、なんと、カミキリ。
ホール前の壁をノソノソと歩いている。
うっそ~、と思いながら急いで捕まえて、虫かごに入れる。
そして入ったとたん、Aくんが登園してきた。
うっそ~。
それで、急いでAくんのところに行く。
それにしても、Aくんの機嫌の悪そうな顔と言ったら、
ここ極まれり。
だが、私が興奮してカミキリムシを見せると、
その顔がぱっと明るくなった。
そして、
「ゴマダラカミキリムシや。」と博士のように言った。
プライドがにじむなぁ。
そして、しばらくして・・・。
Aくんが、担任の先生と一緒にやってきた。
「Aくんが、園長先生にお話があるそうです。」
だが、Aくんは、後ろを向いてうつむいている。
「ん~?何やろう。
Aくんなぁに?」
だが、Aくんは、うつむくばかり。
「ん~?なになに。お家に持って帰りたいの?」
と聞くと、担任の先生が、
「いや~、違うんです。お礼が言いたいって。
まみこ先生にありがとうって言いたいんだよね。」
!
Aくん、ありがとう。
これは、神様のプレゼント。
まさか、こんなにすぐにカミキリムシが現れるなんて。
そして、こんなにタイミングよく君が登園してくるなんて。
こんなことって、あるんやなぁ。
神様のすてき。