そして、次の年、
彼は天真爛漫な男の子に、手に入らないものへの憧れを持ち、
関わるようになりました。
それは、相手にとって、喜びではありませんでした。
先生が彼を呼んで、「淋しいのね。」と言って泣きました。
彼は、びっくりしました。
ぼくのために、泣いてるの?
彼は、これをどう受け止めていいのか、わかりませんでした。
だから、いつも変わらない先生のところに行って、
僕を大事にしているのはあなただけだ、と言いました。
「そう?
今のせんせいは?」
「あなたと今のせんせいだけ。」
「それはちがうね。
年少のときのせんせいは?
あなたと毎日○○をやったでしょう。」
「うん、でも、もういない。」
「いなくても、あなたのことは大切なの。」
「それから、次のせんせいは?
あのせんせいもあなたのことがとても大事よ。」
「うん・・・。」
そのときの先生の涙で、彼の心に大輪の花のつぼみができました。
今、つぼみは、とまどいのなかにいます。
ぼくは、この世界の住人になっていいのだろうか。
一度、壁にあてて屈折させる世界ではなく、
まっすぐな世界へ、ぼくは行けるのだろうか。
彼は、先生のそばにいて、
「あなたが僕の拠り所」という態度をそのまま表すようになり、
泣き虫になり、わがままになり、おこりんぼになり、
大っぴらないじわるになり、
和らかな笑顔を浮かべる子になりました。
黒いものが、水色になりました。
靴箱の隅が、いじけたときの定位置となり、
隣のクラスの先生と目を合わせ、
「せんせいに知らせて」という目をするようになりました。
せんせいたちは、それを嬉しそうに話しました。
ねぇ、Rくん。
みんながあなたを守っているの。
わたしたちは、あなたの想うように動けないし、
あなたの想うような愛は与えられない。
代わりに、多くの愛と、
薄いけれど広くて、次の扉を開けられる愛をささげられる。
こっちに来てね。
怖くないから。
その大輪の花を咲かせましょう。