心を自分でコントロールすることは、
大人でも、とても難しい。
今、自分がしていることよりも、
もっと魅力的なことが目の前で起こっていたら、
そこに向かいたくなるのが、人というもの。
なのでKくんは、運動会の係りの練習で、
自分の役割を一回すると、
道具を首から外して、そっちへ行く。
「Kくん、Kくんは、笛の係りなが。
だから、走らんが。
ね、笛、吹いて」
「はい、Kくん、終わり―。
あなたは年長さんです。
こっちに来て、笛を吹いてください。」
「・・・。
まぁええか。」
と何度、彼と攻防をしたか。
それでも、本番はやるであろうと思っていた。
そして本番。
彼は、一度役割を済ますと、首から笛を外し始めた。
そう来たか。
「Kくん。そうじゃない。
今日は、そうじゃない。
Kくんは、年長さんで、係りなが。
今日は、やるが。」
と声をかける。
と、Kくんは、後ろを向いた。
でも、動かない。
うつむいて、動かない。
その背中に手をあてた。
Kくんが考え、自分の思いと戦う、その背中に、
私は手で、語りかける。
そして、
Kくんは、
こっちを向いた。
「やるのね。」
というと、うなづき、私から笛を受け取った。
小さなドラマ。
けれど、Kくんにとっても、私にとっても大きかったドラマ。
よかった。
心底、嬉しかった。
子どものすてき。