Tくんは、全部じゃなきゃ、いらないという。
全部、僕のものにならないなら、いらない。
だから、Tくんにとって、「それとかかわる」ということは二の次で、
それが、自分のものになるか、ならないかが、重要だった。
Tくんはそれが大好きだったけど、
ふいに怒りを見せて、その足をもぐことがあった。
何度もね。
もう、それは自分からは動けない。
だからTくんは、自分が手を差し伸べたら、
どんなふうにそれが自分の手の平にのってくるのか、
しらない。
そんなふうに、手を差し伸べるなんて、
自分じゃなくなりそうだったから、できなかった。
そうして、Tくんにとって最初からなかったものが、
やっぱりちゃんと「ない」ということになった。
ものすごく回り道して、結局選んだ「ない」ということ。
その回り道の間には、Tくんにとってそれは「あった」のだろうか。
確かなことは、毎日のなかで、ないものはやっぱりなくて、
あすも、あさっても、しあさっても、
その次の日も、そのまた次の日も、確かにない。
だから、それを手に入れることの希望や意味が消えていく。
そうして、Tくんは、別のものを選んだ。
別のものとは、対話が生まれた。
もう、思っているだけじゃない。
心と身体がかかわって、ダイレクトな反応を得ることができる。
新しい物語が生まれる。
でも、前の物語も、終わらない。
それは、もとは一つだった命の物語。
ずっと、悲しいことばかりで、辛いことばかりで、
笑いがなかったね。
物語は、ずっと、続いていくでしょう。
出会わなければ、穏やかだった。
でも、出会ってしまって、その命の在り方を
愛しいと思ってしまった。
そこに笑いがあるといいね。
暗いのは、疲れる。
幸せは、ときにボロボロだけど、
朝が来て、夜が来て、また朝が来る。
Tくんの毎日が希望に満ちたものでありますように。
心のなかの、摩訶不思議。