初めての幼稚園。
初めての人たち。
初めての場所。
そこに一人。
男気で、頑張ってみるTくん。
ぜったい保育室には入りたくない。
だけど、僕は一人だという気持ちはどうしようもなく、
やがて、わんわん泣いた。
頑張ったね。
Tくん。
次の日。
彼は、泣くときに、ハンカチをポケットから出し、
それを両目にあてて、涙をふきながら泣いた。
ハンカチで、涙をふいてる。
こんな年少さんは、初めて見た。
彼は、簡単に抱っこさせてくれなかった。
だから、時々、お膝に抱いて、
お話をした。
ブランコが好きみたいで、
ブランコに乗ると、少し、顔が晴れやかになった。
交代すると、そのまま、山の上に行って、
てっぺんで立ち止まると、
悲しくなって、わーんと泣き、
ハンカチをポケットから出して、涙をふいた。
その手をとって、
ブランコに誘うと、きれいにそのハンカチをたたんで、
ポケットにしまい、私の手をとった。
そして、また、ブランコに乗って、
また、山の上に行き、
また悲しくなって、ハンカチに目をおしあてて泣き、
それから、またハンカチをたたんでポケットにしまって、
ブランコに乗った。
「山の上に行くと、悲しくなるね。」
というと、
「うん。」
とうなづいた。
見ることは、
孤独。
私に、タイムリミットが来た。
彼を抱っこして、しばらく一緒にいてから、
別れた。
彼は、私から離れたくない素振りを何度か見せたが、
私は、「ごめんね。」といって担任の先生に託し、さよならした。
そのとき、彼は、ぐっと顔を険しくした。
気を立て直すような、険しい顔。
不本意な自分。
涙なんか、見られたくない。
知らない人に、頼りたくないのに、
頼らないと、いられない。
お母さんがいいのに、会えない。
ここにいるしかない。
そんなものを、幼稚園の子になったからと、
引き受けようとする、男気のある心。
3歳でも、りっぱな心構えがある。
それからTくんは、担任の先生のそばにいて、
涙を終えることができ、
先生のやさしさのそばで、過ごしました。
次の日も最初はだいぶ泣いたけど、
保育室にいられるようになりました。
少しずつ、柔らかくなる。
子どものすてき。