あるところに、だいこんがありました。
このだいこんは、月の光と銀の糸でつながっていましたので、
とても長生きでした。
月の光は、だいこんを温かく包むことはありませんでしたが、
その光で、だいこんは夢を描くことができました。
それは、おいしいサラダやおでんやステーキになる夢でした。
月の光があるときは幸せで、ないときは、朝が来るのが苦痛でした。
そんなだいこんは、いつも色んな夢を描いていましたが、
実際のところ、そのために、皮を剥かれ、切り刻まれ、すりおろされるのが、
どうしても受け入れがたく、だから、夢を見るだけでいいなと思っていました。
どうも、それらの出来事がだいこんの美意識に反するものなのです。
そうして、長い長い年月が経ちました。
だいこんは、自分では外に出られないので、ずっとそのままでした。
そんなある日、白いジャケットを着た、白いお髭の、
とても大きなおじいさんがやって来て、
なんの意図もなく、だいこんをズボンとひき抜きました。
だいこんは、それで、心の扉を開いてみて、考えることをやめました。
すると、小さな女の子がやって来て、
だいこんをその胸に抱きしめました。
だいこんは、初めて、心の底からほっとしました。
そして、こう思いました。
さくらが見たいな。
妄想のすてき。