年中さんで、「たけのこ」を描いた。
毎回見るたびに大きくなる「たけのこ」。
食べておいしかった「たけのこ」。
この日は、色塗りだった。
「たけのこ」の中に見つけた色を、自分で創って塗る。
赤があった?ピンクも?黄色も緑も茶色もあるね。
紫もあったかも。
自分なりに見つけた色を先生に出してもらって、
それをお盆の上で、混ぜながら創って塗る。
と、Hくん。ありゃりゃ。
いっぺんに全部混ぜて、ある色ができた。
うーむ。なんですかね、ピンク茶色みたいな色。
しかし、まぁ、よかろう。
やり直しはするけど、とりあえず、その色を塗ってみよう。
私は、となりのNちゃんのそばにいる。
Hくんから、「まみこ先生、僕も手伝って。」という声が。
いいともいいとも。
Nちゃんが没頭し始めたところで、
今度はHくんと二人で色塗りが始まった。
案上、出した色を速効いっしょくたに混ぜ始める。
「ぐわ~、いかんいかん、そんなに混ぜなや。
見より、見より。」
と彼の目の前で、色を創る。
「どう?こんな色。これどう?」
と尋ねると、「いい。」というが、微妙に見てない。
しかしHくんは、たけのこを塗り始めた。
そして、塗る度に彼はこう言った。
「芸術的やね~。」
「うん、芸術的や。」
と、私は応える。
しかしながら、
「ぐわ~、いかんいかん。
そんなに混ぜなや。」
「芸術的やね~。」
「うん、芸術的や。」
「ちがうて、これ見よって、ほら、
ここと、ここ、色ちがうろ。」
「芸術的やね~。」
「うん、芸術的や。」
「見ゆう?見ないかん、見な。」
「芸術的や。」
「うん、すばらしい。」
「やっぱり、筆洗ったらどうやろうね。
塗りたい色で、塗れないじゃん。」
はい、ここもね。ここも、ここもよ。
ここは?どんな色にする?
はい、がんばろう。あとちょっと。
てなわけで、およそ40分ほど、彼にしてみれば、
最高時間であろう、時間、私と攻防を続けた。
その間、彼は30回ほど、塗る度に「芸術的やね~。」を繰り返した。
私はそのたびに、「うん、芸術的や。」と返しながら、
ギャーギャー言い続けた。
そうして彼は、おぼんの中で創られる色を見分けられるようになり、
筆の持ち方がグーから鉛筆持ちに変わり、
殴り塗りが、丁寧塗りに変わり、
塗りたい色を塗るために、筆を洗うということを知り、
自分で色を確認しながら、混ぜて、色を創るようになった。
そうして、彼の「たけのこ」は、大事な、彼だけの「たけのこ」になった。
後半は、「実に色を塗ってますよ、僕は、」という感じになった。
そして、最後は2人で抱き合って、出来た絵を眺めた。
「芸術的やね。」のなかには、彼独特の素直さや、愛らしさやおもしろさがあるが、
ずっと答えているうちに、そこに不安があることが分かった。
彼だって、分かっているのだ。
みんなと違う。
だから、私を呼んだ。
「違う」はわかっても、何が違うかわからない、
どうすればいいかわからない、
そんなときは、ぐっと、先生がひっぱるよ。
丁寧はたいへん。
だけど、よくがんばった。
Hくんのすてき。