もう、随分前のお話。
物静かなJくん。
この世界に、まだ、あまり馴染めない。
だから、飛行機の図鑑を静かに見ている。
隣に座って、一緒に眺める。
「Jくん、Jくんは、どの飛行機が好き?」
と尋ねると、すっと話をそらした。
まだ、2歳のJくん。
好きって言えない。
心を込める、ということが、こわい。
心を動かす、ということが、こわい。
だから、静かに、離れて、過ごす。
でも、2歳だから、やわらかい。
私が、わからないふりして繰り返し尋ねているうちに、
はっきり「これ。」と指差し、「好きなのね。」と念を押すと、
「好き。」と答えた。
言ってしまえば、簡単。
「好き」が、ちょっと普通の言葉になる。
2歳はやわらかい。
Jくんが、心を動かすことを怖がらなくなるには、
およそ多くの時間がかかるだろうと、思っていた。
2歳はやわらかい。
Jくんは、どんどんどんどん、
この世界が好きになった。
目が動き出し、目が輝きはじめる。
コトに着目していた目が、人を見るようになる。
モノやコトは、心を傷つけない。
傷つけるのは、人。
でも、最高の幸せをくれるのも、人。
Jくんの心が動き始める。
「恐い」の先には、必ず喜びがあり、
「恐い」があっても、「安心」は離れないことがわかるようになる。
そうして、Jくんが羽ばたく。
子どものすてき。