卒園の季節。最後に、みんなが自分の絵を描いて、壁面に貼る。
描かないわけには行かない。
だから、描きたい。
でも、自信がない。
だから、手が動かない。
なんとか、輪郭は描いているが、目が描けない。
割りばしペンを持ったまま、どうしても動かないその手を見て、
引き受けることにする。
何回でも描ける、別の紙をもらう。
はい、マルを描いて、○を。
マルのなかに、○を描くが。
こうよ、こう。
そういうわけで、大きな丸を描き、そのなかに、小さな丸を二つ描く。
形の組み合わせで、顔ができるのだということを伝える戦法である。
ところが、目の丸が思うとおりにできなかった。
「ちいさい~。」
と号泣する。
突っ伏したので、顔が墨だらけ。
涙と一緒に、墨をふく。
お、よく墨が取れるな、なんて、思いながら、
また、描いたらえいやんか、
はい、マル描いて、マル。
そのなかに、マル描いて、それから、こう。
と目ん玉も描いて見せる。
また、気に入らないで号泣する。
いすから、崩れ落ちて泣く。
泣きよっちゃ、できんで。
はい、描いて。
なに、泣きゆうが。
はい、やってみ。
というわけで、
号泣しながら、鏡を見ながら、私の描くモデルを見ながら
3回も描いた。
私は、パターン化させることを目的としてごり押しをしながら、
そのごり押しを号泣しながら受け止め、
止めようとしなかった彼の心に、
「描きたい」という強い気持ちを感じ取った。
輪郭と目と口とまゆ毛は描いたが、
鼻は、私の提案するよくある描き方が腑に落ちなかったようで、
描かなかった。
「落書きいっぱいする~」と泣いた。
これは、本番じゃないと言いたかったのだろう。
そして、最後に口を描いたところで、
もう、いっぱいかなと思い、
「また、明日やろうか。今日はここまでにしよう。」
というと、泣きながらうなづき、
その絵をぐしゃぐしゃに丸めようとした。
「やめて、それ、まみこ先生にちょうだい。
いいよ。すごく上手。何がいかんの。
まみこ先生は、これ好きやから、ちょうだい。」
といってもらうと、少し、和らいだ。
だが、治まらず、うわーんと、床に突っ伏して泣いた。
おいで。
と膝に抱いて、抱きしめる。
彼は、ぎゅっと私に身をあずけて泣いた。
「えらかった」とほめる。
担任も、「先生やったらやめてたかも。」と言って、
彼をほめる。
そして、明日また描こう、という私の提案に、
涙を浮かべながらうなづいた。
担任の話では、妙にすっきりしており、
明日にやる気を見せていたという事であった。