金曜日、大学からシャーッと自転車で帰ってくると、
その駐車場のど真ん中に、黒いアゲハが落ちていた。
遠目から見て、死んでいなかったが、
お腹が一部潰れているようだった。
私はそこを、素通りした。
土曜日、遠足だった幼稚園からの帰り、
そのアゲハは、駐車場の奥の端まで移動していた。
日曜日の朝、そのアゲハは、家の裏口の扉の前にいた。
まだ、生きているようだった。
私は、ちょっとお出かけし、
帰りに幼稚園の庭に植える花を日曜市で買ってきた。
月曜日、小雨が降っていて、水やりにちょうどいいと思って、
花を取り出して並べた。
そして、ふとまだ生きているアゲハに手を差し出すと、
そのアゲハは、私の人差し指に乗ってきた。
それは、思いの外しっかりとしていた。
私はアゲハを、ダリアの上に置き、
ストローを伸ばすかちょっとだけ見て、去ろうとした。
そこでふと、もし雨が強く降ったら・・・、
と気になった。
雨に叩きつけられて、
花のそばで死ぬアゲハのイメージが浮かんだ。
そこで、雨は沁みるけど、屋根的なものはある、
という木の下に置いた。
そこで、アゲハがはじめて羽を動かすのを見た。
それから、私は相当アゲハが気になりだしたが、
平静を装うためかなんだかわからんが、
見に行かなかった。(何の平静であろうか?)
そして、朝。
きっとダリアのそばで死んでいるだろうアゲハを想像しながら、
その場所に見に行った。
いない・・・?
ちょっと驚いて、周りを確認したが、
アゲハは忽然といなかった。
飛んだ?
いずれ死ぬけど。
飛んだ?
何でもない、小さな物語。