転園してきた5歳児のTくんと、初めて話をすることができた。
きっかけは、彼の虫の発見である。
「なんか、アリみたいな羽があった。
羽は、こんな形で光ってた。」
見つけた場所からいって、ジバチだろう。
「あぁ、それはきっとジバチだね。この下によく巣を作ってるよ。」
てな、ところから虫談義になった。
「ね~、一番よく働く虫って何か知ってる?」
と、彼が聞いてくる。
「一番よく働く虫?」
「うん。それはね、アリとね、ハチ。」
「あ~、ナルホド。
それがさ~、ハチとかすごくてさ~。
知ってる?あるハチなんかさ~、イモムシの幼虫に卵産み付けてさ~、
それがイモムシのなかで孵って、中を食べて出てくるのよ。
すごくない?」
と、以前に見たDVDの話をしてみせる。
周りの子は、うへぇ、と聞いていたが、T氏は、とまどったようだ。
「なんか、話がすごすぎてわかんない。」
私は彼のこの言葉を聞いて、非常に高い知性を感じた。
その事柄は僕の理解の範疇を超えているが、きちんと分かりたい、
という意志を感じたからである。
そこで私は同じ話を繰り返し、
「いやはや、虫の世界ってすごいんだよ。」
というと、彼は、世界は一つだと主張した。
「この世界はね、」と両手を広げながら、
「一つなんだよ。」と言った。
私は、彼の言葉や姿勢の一つ一つに、
世界を想う真摯な保護者のまなざしを感じながら、別の論点で話してみた。
「うん、確かにそうなんだけど、
世界はいくつかに分けてもみることもできるんだよ。
私たちは、人の世界に生きていて、虫たちには、虫たちの世界がある。
Tくんは、もしかしたら今まで人の世界だけにいたかもしれないけど、
ここは、虫たちの世界もあるとこなの。
ここは、虫の世界と人の世界がいっしょにある場所。」
だから、とても豊かな場所なんだ、という言外の意味を、
彼はしっかりと感じてくれたようだった。
君みたいな子が、そのまま育ってくれたら、
きっとすばらしい研究者になって、自然を支えてくれるかも、
と静かな喜びが胸に沁みた。
一緒に、いろいろと発見していこうね。
子どものすてき。