大人と子ども。
そして、真剣勝負。
これは、とても難しい問題である。
歴然とした差。圧倒的な差。
しかしながら、子どもと大人は連続線上にある。
だから、子どもは大人に大きな憧れをもつ。
同時に、多大なる反抗心や敵愾心も燃やしている。
子どもというのは、いつも大人に対して、両義的な心をもっている。
お泊り保育では、いつもとうちゃんずの方々に、
子どもたちとめいいっぱい遊んでもらう。
そのための打ち合わせで、
大人が子どもと真剣勝負をする、本気の大切さと、
圧倒的な差をわかっている子どもに、
いつかは、ともすれば、
という希望もまた必要だということが、話し合われた。
以前、私は本気でHくんにリレーで負けたことがある。
そのときの、子どもの喜びようったら、なかった。
私の敗北感は、その僅差での負けよりも、
彼がその後、限りなく何度も走り続けているのに、
自分はゼーゼーで、もうそれ以上走れんことだった。
次の日から、私に対する挑戦者、多かったね~。
まぁ、それはよかろう。
まず、恒例になっているとうちゃんずとのドロケイ。
今までは、クラスに参加してもらっていたが、
今回は、とうちゃんずに泥棒になってもらって、
子どもが警察ということにした。
それで、時間で切って、牢屋にたくさん捕まえているクラスが勝ち。
子どもたちの前に、ズラリと12人のお父さんが並ぶ。
「こ、こわい。」という子どものつぶやきが。
そうなのだよ。
お父さんというのは、すごいのだよ。
でかいしね。
やはり、女性と男性は、違いますね。
それにしても、美しかった。
保育の中には、ときどき一生忘れないだろうという、美しい情景が広がる。
なにしろ、動きの躍動感が半端ない。
真剣に追いかけてくる子どもたちを、受け止め、かわし、
跳ね、走る。
だから、時間の笛がなったときの、
父ちゃんたちのゼーゼーぶりも半端なかった。
「ほ、本気出しすぎた。」
と、言っていた。すばらしすぎる。
結果、牢屋には一人。はははは。
子ども、最高のショックであった。
はははは。
次のクラスは、とうちゃんずの体内時計のズレにより、
7人!
ばら組の圧勝で終わった。
ははははは。
そして、次はひっぱりっこ。
綱3本勝負で、2本捕った方が勝ち。
打ち合わせで、ちょうどいい勝負になるように、
6人から8人のところで、子どもの様子を見て調整しようということになった。
で、ドロケイでゼーゼーになったので、8人ということに。
ところが、やってみての感触で、
大人1人で、どうも、5、6人はいけるらしいのである。
私は無理ですがね。
もう、お父さんたちすんごい笑顔。
そうして、子どもの力を感じてくれながら、綱2本がお父さん側へ渡った。
最後の一本を必死で引っ張る子どもたち。
25人対8人。
徐々に、徐々に、子どもの陣地へと綱が引っ張られていく。
わぁお、と心で興奮しながら眺めている園長ドウモト。
時々、お父さんたちがぐっと綱を引っ張る。
すると、子どもたちが、ズリズリ、と引っ張られる。
それでも、必至で引っ張る子どもたち。
あぁ、このまま、一本は自分たちのところに持って行くといいなぁと、
惚れ惚れ眺めていると、
「園長!園長!」
という声が。
陶酔していたので、反応が遅くなる。
「はい?」
「どうすんの?!
このまま、こっちに持ってっていいの?!」
「 !
いや、このままで、子どもの方へ。」
と、お願いする。
こうして、名勝負の装を呈して、最後の一本は子どもの側へと渡った。
子どもは、もう、本当に真剣で、
最初に2本捕られていたことなんか、もう、全然頭になくて、
結果を聞いて、がががーんとショックを受けていた。
いいね。
次のクラスも同様。
今度は、とうちゃんず6人だった。
最後は、あやめ対ばら、子ども同士の対決で、あやめ組が勝った。
真剣勝負というのは、実にいいもんだ。
結果を受け止めざるを得ない。
でもそこに、希望があると、また頑張れる。
本気を出し切ると、そこには何かしらの手応えというものがあって、
何かが腑に落ちて、出来事を向かい受ける力が強くなる。
父ちゃんたちは、愛でもって、子どもたちにそれをプレゼントしてくれた。
自分たちの力を自覚し、それを用いて、
子どもたちの憧れと本気を引き出してくれた。
お母さんをはじめ、お父さんも、
保護者という存在が、個を超えてまとまり、
全ての子どもを慈しんでくれること。
そこには、私たち保育者を超えていく保護者の力がある。
幼稚園を創るのは、子どもと先生と、保護者。
先生と保護者が、全ての子どもを包むことができたら、
子どもは幸せになる。
若草幼稚園、保護者のすてき。